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DQH長編 「エルサーゼの宴-3-」

DQH
06 /16 2017

 大広間が、賑わっている。
 窓の外は夜の帳が落ちているが、大広間は煌々と明るい。久方ぶりに明かりがたくさん灯されて、豪勢な料理の数々が、整えられたテーブルに並んだ。磨き上げられた銀の食器に、上等な葡萄酒。楽隊が奏でる音楽に、色鮮やかに、着飾った人々。
 アクトとメーアも、親衛隊長就任式以来の正装をした。色は普段の兵服と変わらないが、生地が厚く、詰襟と肩章が二人にとっては実に堅苦しい。メーアの服は裾が長く、金糸で華やかに刺繍が入っている。胸当てはつけていない。
 「まったく、着慣れないったら」
 裾を指でつまみ上げ、メーアは小さく溜息をついた。
 「あら。ぱりっとして素敵よ」
 そういうジュリエッタは、淡い紫のドレスを纏って髪をまとめていて、とても美しい。
 「ジュリエッタがドレス着ているの初めて見たわ。とっても綺麗ね!」
 「ありがとう。メーアも、ドレスを着ればよかったのに」
 「冗談。私は親衛隊長よ?」
 そこへアクトがやってきた。詰襟を苦し気に指で直している。アクトの傍らには、ホミロンがふよふよと宙を漂っていた。
 「やはり着慣れないな」
 「まあ、二人して同じこと言うのねえ。でも、とっても素敵よ、アクト」
 ジュリエッタがいつもの調子でアクトに艶っぽい視線を投げかけると、メーアが間に割って入った。
 「ジュリエッター!」
 「ふふふふ」
 「ジュリエッタ、僕は?僕は?」
 ホミロンも、触手の一つに、赤いリボンを結んでおしゃれをしていた。得意気にくるりと回転してみせると、リボンが軽やかに揺れた。
 「あら、かわいい。メーアとお揃いなのね」
 「今日の為に、メーアが用意してくれたんだ」
 「とっても素敵よ」
 「へへへ!」
 「じゃあ、私はそろそろ戻るわね」
 ジュリエッタはグラスを揺すってから、席へと戻って行った。食事はあらかた済み、楽隊の曲に合わせて、酔った客がステップを踏み始めている。
 こんなに賑やかなことは久しぶりで、誰も彼もが皆笑っている。特にディルクは、例の豪快な笑い声を惜しげもせず響かせ、招いた客人たちと酒を酌み交わしていた。
 元々ディルクは、王族とは思えないほどの質素な生活を普段からしていて、先の戦いがあってからはさらに質素になった。城の修繕は後回しにし、市民に食糧を配給し、もてる国家予算のうち、できうる限りを、エルサーゼ、または世界の復興にあてた。
 「晩餐会なんて、久しぶりよね。いつ以来かな」
 楽しげに杯を重ねるディルクを眺めながら、メーアが嬉しそうに言った。
 「そうだな、いつだったかな」
 アクトもすぐには思い出せそうになかった。それほど、楽しい記憶は遠い日々にあった。
 「今日は、街の方も賑やかでしょうね」
 あの男も、今頃街で笑っているだろうか。笑っていると、いいのだが。アクトは心からそう願う。
 「さて。そろそろ、見回りの時間だわ。行ってくるわね」
 「ああ。頼む」
 「僕も行くー!!」
 メーアがマントを翻し、ホミロンを伴って大広間を出て行くと、酔った客たちが、いつの間にやら手を取り合ってダンスを始めていた。次はあの曲を!とか、酒はもう無いのかなどの声が飛び交い、アクトは思わず苦笑する。これでは、町の酒場で見る光景とさして変わりが無い。
 部屋を変え、晩餐会が、舞踏会になった。酔ったのか、椅子に腰を下ろして水を飲むディルクに、アクトはそっと近づいた。
ディルクから少し離れた場所で、大臣のフィデリオが、あれやこれやと指示をとばしていた。 
 「ディルク様。あまりお過ごしになりませんように」
 「うん? なあに、これくらいでは、まだまだ」
 わあっと歓声が上がり、ディルクも声を上げ、手を叩いた。シーラの村長が、見事なステップを披露している。ドワドキアの族長が、ついていけずに尻餅をついて、どっと笑い声が溢れた。
 「何をしておるか、ディーノ!」
 そう言って、ディルクはがははと笑った。ディルクの声に誘われ皆も笑い、ドワドキアの族長、ディーノがもう一勝負とシーラの村長に勝負を挑んでいる。
 「楽しいのう、アクトよ」
 「はい」
 「笑い声や笑顔というものは、実に良いものじゃな。こういうものはな、出し惜しみをしてはならんぞ。笑いたい時は、大いに笑うがいいのじゃ。
そしてな、大事なことは、大切な者の笑顔はな、ようく、目に焼き付けておくのじゃ。笑い声は、耳の奥に収めておけ。いつでも、思い出せるようにの」
 「はあ……」
 曲が、静かな曲へと変わっていた。ディルクは目を閉じ、ハミングをしている。どこか懐かしむような風情で、アクトは声をかけられないまま、ディルクのそばに立っていた。
 すると、ラバトールの町長と、一人の女性が、歩み寄ってきた。
 褐色の肌に、豊かな黒髪を一つに結い上げている。深紅の、体にぴったりとした形のドレスを身にまとっている、美しい娘だ。
 「ディルク様。アクト殿。良い夜ですなあ」
 「おお、ナミル。それから、ラナ。久しいのう、大きゅうなった」
 「ディルク様。今宵は私までお招き頂き、まことにありがとうございます」
 ラナは膝を折り、頭を下げた。
 「よい、よい、ラナよ。どうじゃ、楽しんでおるか?」
 「はい」
 凛とした声で答えるラナが、そこでアクトを見て、恥ずかし気に面を伏せた。
 「そうか、お前たち、初対面であったか。ラナ、これは儂の親衛隊長の、アクトじゃ。アクト、この娘は、ラバトール町長、ナミルの娘の、ラナじゃ」
 「はじめまして。アクトと申します」
 「はじめまして……」
 「アクト殿。どうです、娘と一曲、踊ってはくれませんか」
 ナミルが、実直そのものといった眼差しをアクトに向けた。アクトが何のことか理解できるまで数秒を要した。目の前、広間の中央では、すでに何組もの男女が手を取り合ってダンスに興じている。
 「申し訳ありませんが、私は……」
 なんといっても親衛隊である。ディルクのそばを離れダンスなどできるはずもない。断りかけた時、当のディルクが、アクトの背中をおした。  
 「行ってこい、アクト。護衛の事は気にするな。メーアも、親衛隊もおる。」
 「はあ…ですが……」
 乗り気でないアクトに、ディルクはそっと声を潜めた。
 「これも仕事のうちじゃ」
 「は、はい……」
 ディルクに押し出されるようにして進み出て、アクトは気を取り直し、ラナに手を差し出した。
 「お待たせしました。参りましょう」
 「ええ」
 アクトのエスコートで二人はホールを進んでいき、周りはざわめいた。
 曲が始まり、アクトとラナはお辞儀し合うと、手を取り踊り始めた。
 周りにいた招待客全員が、親衛隊長はダンスの心得もあるのかと、感嘆の声を上げる。幼い頃より王族のディルクに育てられたので、当然嗜んではいたのだが、いかんせん、これまで披露する場が無かったのだ。
 周りが、アクトを賞賛の、あるいは憧れの眼差しで見、ディルクは誇らしい気持ちでいっぱいになった。
 ディルクにとって、アクトとメーアは我が子も同然であり、王と臣下という形を取った為身分は違えど、出来る限りの教育を施してきたのだ。
 手塩にかけて育ててきたアクトがこんなにも立派になって、人々を魅了している。
 ディルクは、感無量であった。
 「ディルク様は、踊りませんの?」
 いつの間にか隣にきていたジュリエッタが言う。
 「おお、ジュリエッタ。うむ、少し、酔ってしまってな。ははは、飲みすぎたわい」
 「アクト、ダンスもできますのね。ディルク様がお教えになったのですか?」
 「ははは、一応な。しかし、アクトはわしより上手いのう」
 陽気に笑うディルクがどんな思いで自分を見ているかなど知る由もなく、アクトはラナと踊り続けていた。
 

 「じゃあ、引き続き、よろしくね」
 「はっ!」
 城内を見回る隊員2人に声をかけ、メーアは広間に戻った。
 (ん…?)
 人々の隙間から、メーアは、ラナと踊るアクトを見た。
 ( あ、あいつ、何してんのよ!)
 曲が聞こえてきていたので、見回りながら、あぁダンスが始まったとは思っていたけれど、まさかアクトが踊っているとは予想外であった。
 メーアはハッとして、すぐにディルクの元に戻る。
 「おお、メーア。見回り、御苦労であったな」
 「ディルク様、アクトは……」
 「うむ、ラナにダンスを申し込まれてな」
 「し、仕事を放って……」
 メーアの声にただならぬものを感じたディルクは、慌てて繕った。何も知らないナミルが、にこにことラナを眺めている。
 「わしが行けと言ったのだ。これも仕事だ、とな。メーアも踊ってきたらどうだ?」
 「私はいいです!」
 そこで曲が終わり、アクトは見事にラナをリードして、踊りきった。周りからは拍手が起こり、アクトはラナの手を取って、ナミルの元まで送り届ける。町長とアクトはいくつか言葉を交わし、その間、ラナはいつの間にかアクトの腕に自分の腕を絡め、うっとりとアクトを見上げていた。
 (な、何よ、コレ……!)
 メーアは沸き起こる苛立ちと戸惑いを必死に抑えながら、平静を装って、親衛隊長として、ディルクの傍らに立っていた。
 ジュリエッタは、そんなメーアの視線が、アクトとラナに釘付けであり、メーアの心中が穏やかでないことももちろん察していた。
 ナミルとラナが一礼してその場を去って行った。メーアはアクトと視線が合わぬよう、わざとそっぽを向いていた。
 「ディルク様、戻りました」
 「おお、アクト。久々にしては、よく踊れていたな」
 「いや、完璧には程遠く…っとメーア、戻ったのか。何も問題は無かったか?」
 「……」
 「……なんだ、何かあったのか?」
 「……別に。何もないわよ」
 「……? なんだ、どうしたんだ?」
 「見回り、交代ですけど。さっさと行きなさいよ。それとも、まだ踊る気?」
 「冗談じゃない、今のは……」
 じろりとメーアが視線で、アクトに促す。恐る恐る振り返ると、色めきたった女性陣がいた。
 「……見回りに行って来る」
 「はい、行ってらっしゃい」
 人をかき分け、アクトは逃げるように広間を後にした。メーアにも何人かの男がダンスを申し込もうと声をかけたが、その瞳に良からぬものを感じ、皆挨拶だけして、そそくさと立ち去って行く。 
 そんなメーアをジュリエッタは広間の隅の方から眺めて、くすくすと笑っていた。グラスを揺すっていると、甘い芳香が立ち上る。 
 「ジュリエッタさん」
 聞き覚えのある声は、シーラの村長だった。慰霊祭で軽く挨拶をした時よりも、少し頬を上気させている。 
 「もしよろしければ、私と一曲、踊ってはいただけませんか」
 踊る気分では無かったので隅に控えていたのだけれど。
 ジュリエッタは給士をつかまえグラスを渡すと、くっきりと微笑んだ。
 「ええ。喜んでお受けいたしますわ」
 村長の手を取って、ジュリエッタはホールに歩み出る。
 ジュリエッタよりも白く透き通った冷たい手指は、懐かしい感触だった。

 シーラの豊かな緑の中で、月と星がきれいな夜は、エルフたちは楽器を持ち出し、音楽を奏でた。
 裸足になって露草を踏み、月の光に包まれて、風と一緒に、音楽を楽しむ。
 それが、エルフの嗜みだった。
 それは、始原の里という閉鎖的な世界で生きてきたジュリエッタには、とても開放的で新鮮だった。

 何も知らない、知識欲だけ旺盛な、小娘だったころ。
 だから、知りたいと思ってしまったのだ。
 この人のことを、もっと知りたい、と。

 「見事なステップでしたわ」
 そんなことを思い出しながら唐突に呟くと、村長は微かに首を傾げた。
 「さっき。ドワドキアの族長さんと、踊ってらしたでしょう?」
 「ああ。嫌だなあ、見ていたのですね」
 そう言って笑うと、瞳が星のように煌めいた。喜ばせてしまったと、ジュリエッタは苦笑する。
 「変わらず、お美しい」
 「……あなたも」
 「懐かしい香りだ。何番の発明品だったかな、これは」
 「お喋りなところも、変わらないのね、村長さん」
 「……こうしている間だけは、アルフィンと呼んではいただけませんか?」
 アルフィンの、少しだけ熱を帯びた声に、ジュリエッタは溜息をついてみせたつもりが、笑い声になってしまった。アルフィンはジュリエッタの腰に添えた手に力を込めて、ほんの少し抱き寄せる。拒否することもできないやり方も、あの頃とまったく変わっていない。
 曲が終わり、再びアルフィンのエスコ―トで、先ほどいた場所に戻る。アルフィンがジュリエッタを見つめ、口を開こうとしたその時に、ジュリエッタが先手をきった。
 「楽しかったわ。ありがとう」 
 そう言って、ジュリエッタは綺麗に紅で彩られた唇の端を持ち上げ、笑う。
 アルフィンは、ぎゅっとジュリエッタの手を握りしめて、何か言いかけてから、口を閉ざし、寂しそうに笑って、去って行った。
 握りしめられた手には、アルフィンの体温が、名残惜しそうに、残っていた。


 
 夜も更けて、晩餐会もお開きとなり、泊まっていく客などもいれば、近場なので馬車を出して帰るものもいた。ディルクはわざわざ城門まで出て帰る者たちを見送っている。
 「よし、ナミルよ。飲みなおすとしようか」
 「ははは、いいですな!」
 「ディルク様。ちょっと飲みすぎ!」
 「お父様。もう、いい加減になさって下さい」
 メーアとラナが嗜めるように言うが、ディルクとナミルはがっちりと肩を組み、陽気に歌を唄い始めた。
 そんな二人を横目に見ながら、メーアとラナは同時に小さく息をついた。 
 「ええっと……こうなると、止めるのは無理……ね。ラナさんは、お部屋に案内させていただきますね。今、人を呼びますから……」
 「あ、少しだけお待ちください」
 そう言って、ラナはすぐそばで王国兵と打ち合わせているアクトに向かって歩きだした。コツコツと、高い踵が床を叩く。
 「アクト様」
 「……ラナさん。先ほどは、お相手いただきまして、ありがとうございました」
 「いいえ。私こそ、突然に、申し訳ございませんでした」
 アクトはラナが距離を詰めた分、無意識に一歩引く。しかし、ラナはアクトが引いた分、また前に踏み出す。
 そんな足元のやり取りを見つめて、メーアが憮然とした。
 「今日は、アクト様と踊れて嬉しかったです。今度は是非、ラバトールにもいらして下さい」
 「うむ、ラバトールの武術大会で、アクト殿とメーア殿の剣技を、是非披露して頂きたい」
 いつの間にかラナの後ろにやってきたナミルが言う。
 「披露するほどのものではありませんよ」
 「そうですよ。大体、アクトは剣技より何より、長~い作戦をたてるのが好きだし」
 メーアがにこやかにナミルに言う。
 その言い方には明らかにトゲがあり、アクトは少しムッとした。
 「隊長としては当然だ。いかに剣の腕がたっても、力任せでは勝てないし、隊を危険にさらすだけだからな」
 「それは、私が力任せだって言ってるわけ?」
 「メーア隊長、お呼びですか」
 そこでメイドがパタパタと忙しく駆け寄ってきて、二人は口を閉ざす。何も知らないメイドは、にこやかにメーアの指示を待っている。
 「あ、えっと……ラナさんを、お部屋までご案内してくれる?」
 「かしこまりました。どうぞ、こちらへ」 
 アクトとメーアの醸し出す、その少し険悪な空気の中に、メーアの嫉妬を敏感に感じ取ったラナは、メーアを一瞥し、アクトに微笑む。
 「では、失礼させて頂きます。おやすみなさい」
 ラナの、ぴんと背筋の伸びだ後ろ姿が、廊下の角を曲がって見えなくなるまで、二人は無言のまま見送った。
 ディルクはすでに広間に戻り、城に宿泊するので残っている客人たちと、酒を酌み交わし始めたようだ。愉快そうな笑い声が、遠く聞こえる。
 「ディルク様ったら、まだ飲むのかしら」
 「たまの事だ。それに、嬉しいんだろう、きっと」
 「……そうね」
 ついさっきまで険悪だった事を思い出し、メーアは口をつぐんだが、アクトは頓着しない様子だった。
 「さて。悪いが、俺はあがるぞ」
 そうだった。アクトは今日は早朝からの勤務だったのだ。朝から今まで警護し、交代するようにメーアは夕方からの勤務だった。
 「あ、そっか、お疲れ様。何か引き継ぎはある?」
 「変わった事は無い。打ち合わせていた通り、あとは頼む」
 「わかったわ」
 アクトはばさりとマントを払うようにして、元来た道を、戻って行った。


 夜もすっかり更けて、皆寝静まった頃、メーアは見回りを終え、親衛隊が控える詰所に戻った。皆警備で出払っているので、そこには副隊長のブラス一人だった。
 「お疲れ様です」
 「お疲れ様」
 さすがに、夕方からぶっ続けでの警備でメーアも疲れを感じた。やはりこういった時は、メーアといえどいつも以上に気を張る。
 コーヒーでも飲もうと立ち上がると、副隊長が休憩を勧めてきた。
 「皆様お休みになられて少し落ち着きましたし、メーア隊長も、少し休まれてはいかがですか?私が、ここに詰めておりますから」
 「そうね、そうさせてもらおうかしら」
 外の空気を吸い込みたくて、メーアは詰所から近いバルコニーに出た。
 柔らかな夜風が気持ち良く、メーアは軽く伸びをする。たくさんの星が瞬いていて、メーアは思わず微笑む。
 すると、バルコニーの端に、人影が見えた。剣の柄に手を伸ばそうとして、メーアはそれがアクトであることに気づいた。
 アクトは階段に腰掛けて、じっと空を見上げていた。クセのある髪の毛を風が揺らしている。星を眺めるアクトの目は微笑みを浮かべていて、メーアはつい、そんなアクトを見つめてしまう。
 「アクト」
 「ん?ああ、メーアか」
 メーアは、アクトの隣に腰を下ろした。
 アクトは珍しく、小瓶に入った酒を飲んでいたようだった。
 「珍しいわね、アクトがお酒を自分から飲むなんて」
 「俺だって、飲みたい時もあるさ。というか、ディルク様に無理やり渡されたんだがな。だが、俺には強すぎてな」
 「ふぅん。もらってあげよっか」
 「馬鹿言え。休憩か?」
 「うん。やっと静かになったから」
 「そうだな、随分、賑やかだったもんな」
 酒を飲んだからか、アクトはすこしリラックスした様子だ。胸当ても剣も、グローブもみな外して、普段着に着替えていた。親衛隊長ではない、ゆるやかな表情で、ゆっくり酒を飲んで星を眺めているアクトを見、メーアもなぜか、心が和んだ。
 (アクトも、ずっと気を張り詰めていたものね)
 あの事件が解決してからというもの、アクトに休みは無かった。勿論それはメーアとて同じだったが、あの事件があってから、アクトはより親衛隊 の任務に打ち込むようになったとメーアは思う。それだけでなく、城や城下町の復興事業は勿論、各地への視察の同行、魔物の討伐など、アクトの仕事は親衛隊の枠を越えていた。
 アクトは変わった。
 メーアは思う。根本的な所は変わっていないが、そういうことでない。
 わかっている。
 あの日、あの光景を見て――アクトは変わったのだ。そのことを、メーアは誰よりわかっていた。
 「アクトさ、最近、働き過ぎじゃない?突っ走りすぎっていうか……」
 「確かにそうだな……って、メーアに言われたくないな」
 アクトは笑って、酒をほんの一口流し込む。
 「あんな事は、二度とごめんだからな」
 「そりゃあまあ、そうだけど」
 メーアは、アクトがひっそりと、魔物たちの慰霊碑を訪れている事も知っている。またいつ、ああいう事が起こるかわからないと、アクトは気を引き締め過ぎている気が、メーアはする。アクトもそれはわかっていて、息を抜くために、こうして一人で星を見ながら酒を飲んだりしているのだろう。
 「飲むなら、声かけてくれればいいのに。付き合うわよ」
 「うん……あ、そういえば。手紙、見たか?詰所に置いておいたんだが」
 「手紙?」
 「ほら、エルサーゼに魔物が攻めて来た時、助けた夫婦がいただろ?」
 「ああ、あの夫婦」
 手紙には、助けてくれた礼と、町外れに夫婦で小さな酒場を開いたから、アクトとメーアに是非来てほしいと書いてあった、とアクトは言った。
 「へえー!良いじゃない、行こうよ!」
 「そうだな、行くか」
 「アクト、明日休み?」
 「ああ。メーアは、午前中であがりだろ?」
 「うん。じゃあ早速、明日行く?」
 「そうだな、慰霊祭が無事に終わった打ち上げをするか」
 「じゃあ、夕方に待ち合わせましょ」
 「ああ、じゃあ、夕方、市場の入り口で。どうだ?」
 「了解。楽しみね」
 「ああ、あの夫婦に会うのも久しぶりだな」
 私が楽しみなのは、あの夫婦に会えるからってだけじゃないんだけどな。
 メーアはアクトを横目で見ると、ちょっと眠たそうなアクトが目に入った。
 「もう寝たら?朝早かったんでしょう?」
 「ああ、そうするかな」
 アクトは立ち上がり体を伸ばす。小瓶には、まだ随分と酒が残っていた。
 「じゃあ、明日な」
 「うん、おやすみなさい」
 メーアは、立ち去るアクトの背中を、早まる鼓動とともに、静かに見送った。
 いつの間にか、城の灯りがぐっと落とされて、夜の闇が城を包んでいる。
 メーアは灯りを取って、ゆっくり、腰を上げた。
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pensuke17

pensuke(ぺんすけ)と申します。

DQの小説を書いております。
二児の母親です。 ※4歳、1歳

DQの二次創作であり、作品にはオリジナルの設定、オリジナルキャラクターが多々ございます。ネタバレなど含まれることもございますのでご注意下さい。
また、掲載している文章の無断引用、無断転載はご遠慮下さいますようお願いいたします。
特に、頂きもののイラストに関しましては、無断転載厳禁とさせていただきます。

のんびりとやって参ります。
少しでも、お楽しみいただければと思います。

Twitter ID:@dqp7150

 

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